「君、影薄いね」と貴方は言った

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【好き瞬感想】ただ一度だけ、再び力を振り絞って、『美しきもの』を紡ぎたいだけなんだ

 大人気ブログ『蕎麦屋』に、「好きになるその瞬間を。」の感想エントリが投稿されました。

tororosoba.hatenablog.com

 

 正直に言うと、このエントリに書かれていることの大半に同意できてしまい、私として、これ以上言うことはないような状態です。

 それでも、「前回のような勢いだけではなく、感情を整理し、自分の言葉で感想を言いたい」という漠然とした想いが消えなかったので、改めて、このエントリで感想……というよりは、「何を感じ、何を想ったのか」を言葉にしておきたいと思います。

 

■前作「ずっと前から好きでした。」

 前作、「ずっと前から好きでした。」は、お世辞にも「面白い映画」ではありませんでした。しかし今考えれば、前作の作りは、私のような「本来のターゲットではない層」を、この夏の青空のように澄んだ世界へ連れ出すための入り口としては、正解だったのかもしれません。

 少なくとも、前作で衝撃を受け、破壊された価値観のおかげで、より深く「好きになるその瞬間を。」を楽しめているのは確かだからです。

 

「この映画を見にいく時は、『好きな人に会いに行く気持ち』になって行こう」

「この映画に、『恋』をしよう」

 

 そういう気持ちを持って視聴に臨めたのは、間違いなく前作のおかげです。そういう意味では、「ずっと前から好きでした。」を見てからのほうが、「好きになるその瞬間を。」を、より楽しめるかもしれません。

 

■今作「好きになるその瞬間を。」

 今作、「好きになるその瞬間を。」は、前作に比べれば、ずっと面白い映画です。それは恐らく、前作が青春群像劇だったのに対して、今作はあくまで「瀬戸口雛」をメインに据え、その恋心を描いた作品だからでしょう。

 瀬戸口雛は、時に笑い、時に悩み、時に涙を流し、60分の中でさまざまな表情を見せてくれます。そんな瀬戸口雛というキャラクターは、純粋に可愛らしく、大体の視聴者は、彼女に好意を抱くことでしょう。そして、彼女の恋に悩む姿を、我々は心から応援したくなり、その恋の経緯・結末から、我々は「輝き」を受け取るのです。

 

■受け取った「輝き」と、「貴いもの」に突き動かされて

 何をこの映画から受け取るかは、人によってさまざまだと思います。例えば、憧憬を受け取る人もいるでしょう。過去の出来事に想いを馳せ、少しの寂しさを受け取る人もいるでしょう。ですが、人によって受け取るものは違っても、その胸に宿るものは等しく同じ価値を持つと、私は信じて疑いません。

 すなわち、人はこの映画から「輝き」を受け取るのです。そして、その輝きは、胸のうちに埋もれていた「何か」を掘り起こし、それを再び輝かせるのです。その「何か」がどのようなものであれ、みな等しく「貴いもの」であろうということを、私は強く信じているのです。

 今、この映画を見た「本来のターゲットでない層」は、激しく動揺し、しかし、「この映画の良さ」を、それぞれの言葉・行動で表そうとしています。あるいは、曲を聞き込み、「瀬戸口雛」を始めとする登場人物たちの心境をなぞろうとしています。

 どういう行動を起こすかは人によってさまざまですが、その原理となっているのは、この映画から受け取った「輝き」と、再び輝いた胸の内の「貴いもの」であろうと、私は思うのです。

 

■爽やかな物語の見送りに苦しみは似合わない

 さて、私自身はどうだったかというと、この映画を見た直後は、「ふーん」というのが率直な感想でした。キャラクターは可愛かったけれど、話も前作と比べて面白かったけれど、ただ、そんなに深い話でもないな、と。

 けれど、映画を見終わって十分経ち、一時間経ち、一晩経つごとに、この映画に対して言いたいことが、考えたいことが溢れ、止まらなくなってしまったのです。

 それは、決して「楽しい」だけのものではありませんした。時に苦しく、時にもがくような、鬱屈とした考えが頭を支配した時もありました。しかし、OPである「センパイ。」とEDである「大嫌いだったはずだった。」を繰り返し聞くに連れて、次第にこう思うようになっていきました。

 すなわち、

 

「爽やかな青春の物語に、その終わりを見届けるのに、涙や苦しみは似合わない」

 

 きっと瀬戸口雛を筆頭にする登場人物たちにとっては、この物語は青春の一ページ。後から、その苦しさや悲しさを振り返った時、きっと「いい思い出」になる物語だったと、そう思うから。私もこの物語を、そういう風に見守ろう。

 そんな風に思えるようになりました。

 

■終わりに

「好きになるその瞬間を。」は、冷静に見れば、取るに足らない、キャラクターが可愛いだけの映画かもしれません。しかし、「恋をする」つもりでこの映画を見に行けば、きっと素敵な貴いものを――それは時に、自らの心を傷つけるような感情であったとしても――受け取ることができるはずです。

 2016年ももう終わりですが、ぜひ、スクリーンでこの映画を見て欲しい。そう思う映画でした。

 

 以上。