「君、影薄いね」と貴方は言った

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揺らぎと願い1:「God knows... (covered by レトラ)のストーリー解釈例と、「レトラの歌」としてのアエルシグナル

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雅樂川れとら

 ストーリーテラー、作詞家。11月11日生まれ。埼玉県出身。

 歌と歌をつなぎあわせてひとつの物語を紡ぐ連作歌曲を得意とする。「かつてつらいことがあったとき、歌に心を救ってもらった」という経験から、自分自身も歌で誰かに寄り添うことをこころざす。彼女が紡ぐ静かでやさしい世界観は、多くのファンを魅了する。「レトラ(Singer set)」名義でシンガーとして、「SARA LETORA OLIVEIRA UTAGAWA」名義でアイドルとしても活躍中。

 

 

 今回は、レトラの歌ってみたシーズン1、「揺らぎと願い」のストーリーラインについての予想、そして公開された「God knows……」、さらに、そこから見えてきた「レトラが歌うアエルシグナル」の解釈について考えていきたいと思います。

 

 正直なところ、「揺らぎと願い」のストーリーに関してはもう少し材料がそろってから書くつもりでいたのですが、Xで軽く整理していたら案外まとまってしまったので、書き残すことにしました。まあ当たるも八卦、当たらぬも八卦という感じでお願いします。

 

■キービジュアルについて

 歌ってみた動画がぜんぜん公開されていないのに、何からストーリーを予想すんねん、という話なのですが、実は全体のストーリーラインを予想できる材料はすでに提示されています。それは、「揺らぎと願い」のキービジュアルです。

あらかわいい

 ここで表現されている「6人のレトラ」は、それぞれ6つの歌ってみた動画に対応していると予想できます。パッと見ただけでも、このキービジュアルが「レトラさんのこれまでの半生」を表現していることはわかると思います。

 

 このキービジュアル全体で注目すべきなのは、やはり「星」でしょうか。

 レトラさんで「星」といえば、「きみの一等星」が思い浮かびますが、歌ってみたシリーズできみの一等星を歌うわけがないので、今回は別の意味がこめられているはずです。よくよく見れば、この「星」は右端のレトラさんが持つマイクから伸びていることがわかりますね。

 

 さて、それではそれぞれのレトラさんについて見ていきましょう。

 

1.右端レトラ

 すでに公開された「God knows……」の歌ってみた動画を見れば、これが「バンド時代のレトラさん」を表現していることがわかります。

 右端レトラは「願い」を叶えたレトラさんです。つまり、その手の中にあるマイクと、そしてそこから伸びる星は、「願い」の象徴だと考えることができます。

 

2.泣きレトラ

 暗くうつむき、泣いているレトラさんです。両手からは「願い」が失われてしまっています。目を覆い泣きじゃくる彼女には、目の前を通り過ぎる願いの象徴、「星」を見つけることができません。

 

3.候補生レトラ

 懐かしのジャージ1stで座り込む、候補生時代のレトラさんです。彼女にとって「星」は遥か彼方に輝くものであり、それは羨望(せんぼう)のまなざしで見上げるものであって、手を伸ばそうと思えるものではありません。

 

4.デビュー後レトラ

 立ち上がり、走り出したものの、どこか自信なさげなレトラさんです。その手は胸元で合わさっていて、「星」に手を伸ばしたい衝動と、「また失敗するかもしれない」という恐怖、ふたつの感情がせめぎあっているかのようです。

 

5.ずっこけレトラ

 盛大にずっこけているレトラさんです。レトラさんの活動が、なかなか思うようにいかなかったことを表現しているのかもしれませんね。しかし同時に、それだけ彼女が「星」を追うことに前のめりになってきていることも表現しているように思います。

 個人的に、この週の選曲が、思うようにいかなかったことを表現するのか、前のめりになりはじめたことを表現するのかによって、物語全体の味わいを決定づけると考えています。

 

6.左端レトラ

 思い切りよく「星」に手を伸ばしているレトラさんです。その手は、あと一歩で「星」を、願いを掴めるところまで来ています。

 

■「揺らぎと願い」プロトタイプとしての「生誕祭2024

 このキービジュアルから予想できるのは、「揺らぎと願いは、レトラ誕生祭2024の再解釈」だということです。

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「こいつ、この間も「レトラ誕生祭2024」のこと言ってたし、誕生祭2024が好きすぎるだろ」と思われるかもしれません。まあ実際好きなのですが、個人的にはストーリーテラー雅樂川れとらの原点」がそこにあると考えているので、外して考えることもできません。

 

 レトラ誕生祭2024で描かれたのは、レトラさんの経験をベースにした「レトラさんによく似た少女Aの物語」だと考えています(歌ってみたシーズン1と違って、自分のことを歌っているとは明言されていませんからね)。つまり、これを参考にすることで、「レトラさんの半生の物語」である「揺らぎと願い」のストーリーラインを予想することができる、ということです。

  

 もちろん、ストーリーのすべてが一緒というわけではありません。誕生祭2024は「きみの一等星」お披露目の場でもありましたから、その終着点は「やさしく寄り添うこと」でした。今回の終着点は「願いをつかむ」とか「手を伸ばす」という部分になるはずですから、 途中からストーリーラインは変わってくるでしょう。しかし、「起点」は変わらないはずです。

 

■「God knows……」のテーマは「未練」

 こう考えたとき、「God knows……」に設定された物語のテーマは、誕生祭2024の1曲目だった「Misty Love」と同じテーマだと予想することができます。「Misty Love」のテーマは「未練」。その仮定を元に、歌詞を見ていきましょう。

 

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 さて、歌詞をざっと通しでみるとわかると思いますが、 これは一緒にバンドやってた彼氏と別れたという意味ですね。間違いない。バンドマンと付き合うと歌にされるって本当だったんだ! ……というわけでは、もちろんありません。

 

・渇いた心で~何もできなくて

 まずしっとりした歌いだしからの「ごめんね、何もできなくて」には、歌い手の後悔が滲むようですね。いったい、何に謝っているのでしょうか? 個人的な考えでは、それはレトラさんの「願い」に対しての謝罪です。

 MVの、明るく希望に満ちた表情のレトラさんに騙されてしまいそうですが、この時点でおそらく、レトラさんの夢はほぼ潰えることが確定しています。「ごめんね、何もできなくて」は、せっかく叶えた「願い」に対して、レトラさんが無力だったことへの謝罪です。

 

・痛みを~許してくれない

「願い」は、「星」は、いつもそこに輝いているだけで、レトラさんの抱える悩みも、痛みも、分かち合うことはありません。見る側がどんな状態であっても、変わらずにきらきらと輝く「星」の光は、当時のレトラさんにとって少し冷たく、厳しいものだったのかもしれません。

 

・無垢に生きるため~on the lonely rail

「誰視点で誰のことを言っているのか」というのが少し判断しづらいですが、ここではレトラさんから見た「願い」のことだと解釈するのが一番理解しやすいと思います。

 レトラさんにとって、「願い」は常に無垢なもの。それはかつて、レトラさんの手の中にあり、共に歩んでいたはずでした。しかし今、「願い」は歩みを止めてしまったレトラさんを振り返ることもせず、どんどん遠くへといってしまいます。

 

・私ついていくよ~God bless……

 自分をおいていってしまう「願い」の背中を、必死に追いかけるレトラさんが描かれています。「my way 重なるよ いまふたりに God bless……」は、レトラさんの願望です。

 

・届けて熱くなる想いは~Lovin'you

 引き続き、「願い」を必死に追いかけるレトラさんの姿が描かれます。レトラさんは、なぜ「願い」を追い求めるのでしょう? その理由が、レトラさん自身にもわからなくなっています。冷静さを欠いた思考の中で、ただ「願い」を求め、追いすがる気持ち、”焦り”だけが強くなっていきます。

 

・せめて美しい夢だけを~for your lonely heart

 レトラさんがいくら必死に藻掻(もが)いても、現実は少しも好転するきざしを見せません。耐えがたい現実を前に、レトラさんはそこから目を背けることを選びます。

「まだ終わりじゃない」、自分にそう言い聞かせ、ありえない可能性だけを見つめて「願い」の背中を追いかけ続けるレトラさん。

 

・やめて嘘はあなたらしくないよ~変えられるかもね

 しかし、無力な少女ひとりがいくら抵抗したところで、現実はすべてを押し流します。ここでは、最後の最後まで「ありえない可能性」にすがるレトラさんの姿が描かれます。

「私覚悟してる」というのはレトラさんの錯覚で、実際には「覚悟が決まった自分」に酔っているだけです。「覚悟を決めて話し合えば、きっと事態は好転する」という思い込みです。これは、その後の「運命変えられるかもね」からも明らかです。ここで本当に必要なのは「運命を受け入れて”次”にどうするかを決める覚悟」であって、「運命を変えられるかも」などという希望的観測ではないのですから。

 

・my wish かなえたいのに~God knows……

 そんな希望的観測は、とうぜん叶うことはありません。すべての希望は打ち砕かれ、これから先のことは、もやは誰にもわかりません。

 

・あなたがいて~傷跡なぞる

 とうとうバンドは解散し、レトラさんの世界にはもう、「願い」と彼女のふたりだけ。その「願い」にしても、いまはもう遠く彼方、小さな背中しか見えません。打ちのめされた彼女はますます、かつて「願い」と共に過ごした、美しい日々の思い出に溺れていきます。

 

・だから私~God bless……

 何かを決意し、改めて身を乗り出すような力強い歌唱が印象的なラストパートです。しかし、次に描かれるのは、おそらくレトラさんの失意。それを思えば、ここは現実を直視することができず、ただ「夢」を追うことに没頭することで現実から逃げるレトラさんの姿を表現しているのかもしれません。

 

■「レトラの歌」としてのアエルシグナル解釈

 皆さんはシンガープロジェクトの同日にリリースされた「アエルシグナル」はもう聞きましたか? この曲についても、先日、恥ずかしながら解釈を披露させていただきました。

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 ここで行ったのは「コンポーザーが作り上げたアエルシグナル」という曲の「世界観」への解釈です。曲解釈には、これとは別に「レトラさんが歌唱するにあたって、この歌をどう理解し、どういうイメージを重ねて歌い上げたのか?」という、歌い手側に主眼をおいた解釈というものも存在すると思います。

 

 さて、「God knows……」歌ってみたを解釈したことで、私は「レトラさんのバンド時代のストーリー」の一部を、なんとなくですが受け取った(と思い込んでいる)わけです。そうすると、「これは「アエルシグナルのこの部分に置き換えられるのではないか?」という部分がけっこう出てきまして。

 

 例えば、アエルシグナルの「君」は、バンド時代末期の「潰えそうな願い」を指しているのではないか? のように。この置き換えを採用すると、大病を患っている描写は、つまりそれだけ「願い」が助からない状態にあるということを意味していることになります。

 

「私」=レトラさんは、「願い」をどうやっても助けたい。しかし、結局それは叶わず、かつて「願い」と共にすごした、きらきらした思い出の日々に溺れていきます。「God knows……」歌ってみたの解釈にも「淡い夢の美しさを描きながら 傷跡なぞる」という、似た解釈の部分がありましたよね。

 

「願い」が潰えたことによって、レトラさんは暗く辛い想いをするわけですが、しかし結局、そうしたレトラさんの心を救ったのもまた「願い」だったということが、曲後半から示されています。

 

 最後の「ね、また、遊ぼうね なんて言えないけどね!」の部分は、ここをどんな想いで歌い上げているのかは、他人が推察(すいさつ)することは難しいように思います。しかし、誕生祭2024を参考にするなら、そのヒントは「ハナムケのハナタバ」の歌詞の中にあるように考えています。

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 どうですか? アエルシグナルの「その後」を描く歌詞として、なんかすごいそれっぽくないですか? みなさんも、シンガープロジェクトのスタートを機に、改めて誕生祭2024に向き合いましょう(宣伝)。

 

 こうして考えていくと、ジャケットのエフェクターもまた、「バンド時代のレトラさん」に関連する意味付けができるように思えてきます。私は、歌詞の世界観的には、エフェクターは「脳」の見立てだと判断したわけですが、「レトラの歌」として解釈するのであれば、それは「青春時代の象徴」なのかもしれません。「God knows……」のサムネでも、レトラさんはギターを持っていますしね。

 

 さらにいえば、アエルシグナルのジャケ写を見ると、右下が光り輝いていることがわかります。

右下が光っている

 この部分の下部に書いてある文字は「Hold For Shimmer」、つまりシマー効果のボタンです。シマー効果とは、簡単に言うと「音が幻想的で、キラキラした感じになる」エフェクターの効果です。

 

 さて、どこかで見た覚えがありませんか?

 そう、

 

 

 

「God knows……」のMVで頻繁に使われる演出です。

 MVでは定期的に、幻想的できらきらしたイメージをバックにレトラさんが希望に満ちた表情を見せるシーンがあります。輝きに満ち溢れたこのシーンは、実際にはアエルシグナルの「私」がしていたように、つらい現実を忘れるために、想い出をシマー効果で彩ったものなのではないか? つまりそれだけ、バンド時代終盤のレトラさんは気持ちが追い詰められていたのではないか? そう考えることができます。

 

 もう一度繰り返しになりますが、次に表現されるのはレトラさんの「失意」です(多分……)。そう考えれば、その前段階となるこの選曲が示す内容は、曲調から受ける表面的なイメージとは、かけ離れたものなのかもしれません。

 

 余談になりますが、先日披露されたアエルシグナルの生歌は、エフェクトがかかっていなかったそうですね。リアルタイムの作業が難しいなどの現実的な理由もあるでしょうが、エフェクトありは「曲の世界観」を歌ったもの、エフェクトなしは「”レトラの歌”として歌ったもの」という歌い分けをしているのかもしれませんね。

 

■最後に

「揺らぎと願い」というストーリーライン、それを考えるとっかかりとしての「God knows……」歌ってみた解釈。みなさんは納得行く感じでしたか? それとも、自分の解釈が浮かんできましたか?

 

 今後、レトラさんがライブをやったり、アルバムを出していく中で、「連作歌曲として楽しむ」というやり方は、必ず選択肢に入ってくるかと思います。別に曲だけ聞いても十分楽しめると思いますが、せっかくですから、こうした楽しみ方にチャレンジしてみてはいかがでしょうか?

 

「でも、考えるのとか苦手だし……」「間違ってたら恥ずかしいし……」と考えているそこのあなた!

 

 考察や解釈に、理路整然とした理屈は不要です。

 今週のジャンケットバンクで真経津さんも、「解釈に理屈はいらないのか?」と問われて、「全然。みんな希望を言ってるだけだよ」と答えてますからね(そうだったかな?)。

 

「無責任な奴らだな。でも、その方が楽しそうだ」

 

 以上。