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揺らぎと願い6:シャルル(covered by レトラ)ストーリー解釈例

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■はじめに

 記事中で「レトラ」といった場合、基本的には「揺らぎと願いというフィクションの主役であるレトラ」のことを指します。

 

■「揺らぎと願い:シャルル」ストーリー解釈の前に

 とうとう、揺らぎと願いも最後の一曲となりました。

 

 今回は、いつものような細かな歌詞解釈は行いません。

 決して「バンドマンと付き合うと歌詞にされるんだ」と思ったからではなく、元々、最後にどんな曲が来たとしても、細かな歌詞解釈を行うつもりはありませんでした。「物語の最後には、ある程度の「余白」があった方が美しい」と、私は考えるからです。

 

 ですから今回は、いつもと違った形で解釈を行っていきたいと思います。

 

■「揺らぎと願い:シャルル」ストーリー解釈

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■「あなた」=「願い」への未練

 さて、「揺らぎと願い」という物語において、「願い」は「あなた」という言葉で表されています。そして実は、レトラさんの「あなた」に対する感情は、物語の中ではまだ整理がついていませんでした。

 

 お気づきの方もいらっしゃると思いますが、「ビビデバ」「混沌ブギ」「鬼ノ宴」では、「あなた」という言葉は出てきません。なぜなら、この3曲はレトラさんの内面の変化にフォーカスしたものだからです。

 

 この3曲で表現されていたのは、あくまで「レトラさんの内面がどのように変化していったか?」であって、「God knows……」「ヒッチコック」で表現された「”あなた”に対する未練」への回答ではないのです。

 

 それを考えれば、「揺らぎと願い:シャルル」は、「揺らぎと願い:鬼ノ宴」を経て、ある種の精神的成長をとげたレトラさんが、とうとう「”あなた”への未練」と向き合うという、「過去との決別」を表現したストーリーだと解釈できます。

 

■「過去との決別」というテーマ

 レトラさんは以前にも、「過去との決別」というテーマを扱ったことがあります。それが、久しぶりの登場となる誕生祭2024の5曲目、「ハナムケのハナタバ」です。

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 歌詞を見ていただければ何となく感じるところがあると思うのですが、「ハナムケのハナタバ」と「シャルル」の歌詞は、どこか似た雰囲気を持っています。個人的な印象になりますが、「ハナムケのハナタバ」の方が少し女性的で宝石のようなきらめきがあり、「シャルル」の方が少し男性的でどろどろとした苦しみがあるように思います。

 

■なぜ再びこのテーマを、しかも物語の最後に選んだのか?

 ここで疑問が出てきます。なぜ、レトラさんは2024年11月の時点で「過去との決別」をテーマに選んだにも関わらず、2025年9月の今、再び同じテーマを、しかも「揺らぎと願い」という物語のラストを飾る曲として選んだのでしょうか? 

 

 考えられる理由のひとつ目は、「物語の構成上、それが必要だったから」という、極めて事務的なものです。まあ、物語ですからね。「過去との決別」というテーマはドラマチックで、盛り上げにはうってつけというわけです。

 

 ふたつ目の理由は、「そう簡単に割り切れるものではないから」というものです。どちらかというと、こちらのほうがそれっぽいかな、と考えています。

 

 レトラさんは、頭では「未練を断ち切らなければならない」と理解しています。しかし、頭で理解することと、実際に行動に移すこと。これには大きな差があります。

 

 ましてや、「願い」はレトラさんの価値観のすべて、人生そのものといっても過言ではない存在だったわけです。そうした存在を「過去のものにしよう」と思うだけでそうできるのであれば、誰も思い悩んだりはしませんよね。

 

「ハナムケのハナタバ」と「シャルル」の歌詞を比較してみると、前者が「過去を割り切り、美しい想い出として扱おうとしている」のに対して、後者は「なんとか過去を美しく割り切ろうとしながらも、隠しきれない後悔や苦しみがにじみ出ている」ようなイメージを受けます。

 

 もしかしたらレトラさんにも、「過去」を割り切ろうと思っているのに割り切れない、忘れなければいけないと思っているのに忘れられない、考えれば考えるほど未練や後悔があふれ出て、いつまでもそんな風に引きずる自分に悩み、苦しんだ、数え切れない日々があったのかもしれませんね。

 

■苦悩は終わらず、しかし旅立ちのときはすぐそこに

「揺らぎと願い:シャルル」の歌詞を考えれば、レトラさんはいまだに、「あなた」への未練を断ち切れていないように思えます。しかしそれでも、終わらせなければならないときはやってきます。なぜなら、レトラさんはシンガープロジェクトという、新たな旅に出なければならないのですから。

 

 かつてレトラさんが「こうありたい」と思い描いた日々は、もう実現することはありません。気持ちを整理するため、レトラさんは長い時間をかけ、「あなた」に対して様々なアプローチを行ってきました。敵意を向け、感情を別なもので飾り立て、物わかりの良いフリをし……。

 

 しかし、とうとう彼女は認めます。「あなた」への想いを忘れることができないということを。弱い自分を肯定したくはありませんが、今の彼女は、そんな自分を認めつつあります。「あなた」への想いは、そんな「現在の彼女」を形作るもののひとつなのです。

 

 この気持ちに、どう整理をつけるべきでしょうか?

 旅立ちのときは、すぐそこまで迫っています。

 

■黄色い百合の花言葉

「シャルル」の原曲MVで描かれている花は、白いクロッカスです。「シャルル」の解釈では、しばしば、このクロッカスに由来する神話や花言葉が重要な暗示として用(もち)いられます。

 

 さて、「揺らぎと願い:シャルル」のカバーMVに描かれているのは黄色い百合。その花言葉は「陽気」、「不安」、そして「偽り」です。

 

 レトラさんは、いったい何を偽ったのでしょう?

 私が考えるに、それは「自分」です。

 

 誕生祭2024で、一度は「過去との決別」という姿勢を示したレトラさん。しかし、それは決意表明であって、実際に決別することは、とても難しいことでした。

 

 こんな中途半端な気持ちを抱えたままシンガープロジェクトに取り組んでも上手くいかないということは、他ならぬ彼女自身が一番理解しています。

 

 だから彼女は自分を偽り、今はもう、自分の元を去って久しい「あなた」に向けて哂いかけます(「哂う」には、「微笑む」という意味があります)。理想をいえば、「ハナムケのハナタバ」のように、美しく爽やかに「あなた」とお別れしたかった。しかし、まだ未練を残す今のレトラさんでは、「哂う」ことが精いっぱい。笑顔を作ることすらできません。

 

 ですが、どれだけ控えめだろうと、ぎこちなかろうと。

 その微笑みは彼女が自らの意思で選択した、「過去との決別」のサインです。

 

■最後に

 長らく続いたレトラさんの旅は、今、ひとつの結末を迎えました。

 多くの悩みと葛藤、悲しみや苦しみの果てにたどり着いた結末は、決してハッピーエンドとはいえない、ほろ苦いものでした。しかしそれでも、彼女は停滞した現状から、一歩前に踏み出すことに成功しました。これはとても価値のあることだと思います。

 

 さて、旅の終わりは、新たな旅の始まりを意味しています。

 新たな旅で、彼女は今度こそ、望むものを手に入れることができるのでしょうか?

 

 それでは、未来を語りましょう。

折り返し構造(裏返し構造)から考える「揺らぎと願い」、その未来